
「骨が足りないと言われました。大がかりな手術になるのでしょうか」
「上の奥歯のインプラントは、サイナスリフトが必要と聞いて不安です」
群馬県内からも、こうしたご相談を多くいただきます。そのお気持ちは分かります。「骨がない」と告げられると、大きな手術を覚悟されるのは自然なことです。
ただ、「骨が足りない=大がかりな手術が必要」とは、必ずしも言えません。上顎の奥歯の骨を増やす上顎洞挙上術には、大きく分けて、歯茎の横から骨に窓を開けて行うサイナスリフト(ラテラルアプローチ)と、インプラントを入れる穴から骨を持ち上げるソケットリフト(クレスタルアプローチ)があります。どちらも適応のある術式で、優劣で決まるものではなく、骨の高さや形、全身の状態によって選び方が変わります。
当院は、これまで4,762本(2026年8月現在)のインプラントを埋入してきました。手術を受ける患者さんの8割近くは難症例です。その中で私は、残っている骨の高さが1mmの場合でも、ソケットリフトを主軸にしています。理由は、傷口が小さく、治癒期間や通院回数、費用の負担を抑えやすいからです。ただし、すべての方に適応できるわけではありません。
この記事では、二つの術式の違いと、その選ばれ方を順に説明します。
サイナスリフトとソケットリフトとは?|上顎洞挙上の2つの方法
上顎の奥歯の上には、上顎洞(じょうがくどう)という空洞があります。頬の内側にある、空気の入った袋のようなものです。奥歯を失って時間がたつと、歯茎の骨が痩せて、この空洞との間の骨が薄くなることが多くあります。この骨が薄いままだと、インプラントが空洞に突き出してしまうため、そのままでは埋め込めない場合があります。
そこで、上顎洞の底にある薄い粘膜を持ち上げ、できた隙間に骨を作るための材料を入れて、インプラントを支える骨の高さを確保します。これが上顎洞挙上術です。
二つの術式の違いは、骨に届くための入り口にあります。
サイナスリフト(ラテラルアプローチ)は、歯茎の横を開き、骨に小さな窓を作って、そこから粘膜を持ち上げます。視野が広く、広い範囲を持ち上げたい場合に適応のある術式です。
ソケットリフト(クレスタルアプローチ)は、インプラントを入れる穴そのものを入口にします。その穴から、骨を少しずつ押し上げるように粘膜を持ち上げます。傷口がインプラントの穴だけで済むため、体への負担が小さくなることが多い術式です。一方で、直接目で確認できない部分があり、骨が薄いほど難しくなります。
当院では、残っている骨が1mmの場合でも、ほとんどの患者さんにソケットリフトを行っています。年間400本以上のインプラント手術の中で、この領域の症例を重ねてきた経験があるためです。ただし、骨の形や上顎洞の状態によっては、適応が難しい場合もあります。症例によって異なりますので、検査のうえでご説明します。
二つの違いを比べる|費用・治療期間・耐久性・メンテナンス・メリット・デメリット
ここでは、サイナスリフトとソケットリフトを、項目をそろえて比べます。
〈費用〉
どちらも、骨の状態や使う材料によって大きく変わります。症例によって異なるため、検査のうえでご提示します。一般には、傷口が小さく通院回数も少なくなりやすいソケットリフトのほうが、全体の負担は軽くなることが多いと考えられます。
〈治療期間〉
サイナスリフトは、骨が安定するまで数か月待つ場合があります。ソケットリフトは、条件が合えばインプラントを同時に入れられるため、治癒期間が短くなることが多い術式です。
〈耐久性〉
どちらの術式も、適応を守って行えば、長く使える状態を目指せます。術式そのものよりも、骨の質、噛み合わせ、清掃状態が長持ちを左右することが多いと私は考えています。
〈メンテナンスのしやすさ〉
術式による差は大きくありません。大切なのは、手術後の定期検診で歯ぐきと噛み合わせを確認し続けることです。
〈メリット〉
サイナスリフトは視野が広く、大きな範囲を持ち上げたい場合に向いています。ソケットリフトは傷口が小さく、腫れや痛みが出にくいことが多く、身体的・時間的・経済的な負担を抑えやすい術式です。
〈デメリット〉
サイナスリフトは切開と骨の窓づくりが必要で、負担が大きくなりやすい面があります。ソケットリフトは直接見えない部分があり、骨が薄いほど難しくなります。
私は残存骨が1mmの方でも、ソケットリフトを主軸にしています。ただし、これは当院の判断であり、サイナスリフトが劣るという意味ではありません。骨の形や上顎洞の状態によっては、サイナスリフトのほうが適している方もいます。どちらを選ぶかは、検査の結果で決まります。
術式は残存骨の高さで変わる|どちらにも適応がある
上顎洞挙上の術式を考えるとき、最初の手がかりになるのは、歯ぐきの下に残っている骨の高さです。CTで上顎の骨の高さを測り、上顎洞(鼻の横にある空洞)までの距離を確認します。一般には、残存骨が5mm前後以上あればソケットリフトが検討されやすく、それより少ない場合や、広い範囲で骨を増やしたい場合には、サイナスリフトが選ばれることが多いとされています。
ただ、骨の高さだけで決まるわけではありません。上顎洞の底が平らか、傾いているか、途中に仕切りのような骨の隔壁がないかといった形の問題があります。上顎洞の粘膜が薄くて破れやすい場合や、副鼻腔炎などの炎症がある場合も、慎重な判断が必要です。さらに、持病や服用中のお薬といった全身状態も影響します。たとえば、出血が止まりにくくなるお薬を使っている方は、手術の規模をできるだけ小さくしたほうがよいこともありますし、体への負担が大きい方では、手術の方法そのものを見直すこともあります。
実際に困るのは、「骨が足りない」と言われた方が、大がかりな手術を前提に考えてしまい、そこで治療を諦めてしまう場面です。しかし、骨が少ないことと、大きな手術が必要なことは、必ずしもイコールではありません。当院で手術を受けられる方の8割近くは難症例ですが、その多くでソケットリフトを選んでいるのは、検査の結果、その方の骨の状態と全身状態に適応があると判断したからです。
一方で、ソケットリフトが合わない方も当然おられます。その場合は、サイナスリフトをはじめ、適した方法を検査の結果からご提案します。どちらの術式にも適応があり、優劣ではなく、その方の状態に合うかどうかで決まります。
当院が残存骨1mmでもソケットリフトを主軸にする理由
当院では、上顎洞挙上が必要な方の多くにソケットリフトを用いています。残存骨の高さが1mmという場合でも、骨の状態と全身状態に適応があれば、この方法を第一に考えます。理由は、侵襲が小さいことが、患者さんの負担の軽さにつながりやすいと考えているからです。
ソケットリフトは、インプラントを入れる穴から上顎洞の底をそっと持ち上げる方法です。歯肉を大きく開く必要がなく、傷口が小さいため、感染のリスクを避けやすく、治癒期間が短くなることが多いと考えています。通院の回数や費用の面でも、負担は軽くなる傾向があります。仕事や家庭の都合で何度も通えない方にとって、この差は小さくありません。
一方で、骨が少ないほど、ソケットリフトは手技の難易度が上がります。それでも主軸にできているのは、私が20年以上、この領域の症例を数多く扱ってきたからです。インプラントの埋入実績は4,762本(2026年8月現在)、年間では400本以上を手がけており、骨の薄さや粘膜の状態を手元の感触で読み取る経験が積み重なっています。ガイドサージェリーや超音波ボーンサージェリー(バリオサージ)といった機器も、安全に進めるための補助として組み合わせています。
ただし、これは「この術式が優れている」という話ではありません。当院ではこの方法を軸にしている、というだけです。上顎洞の形や粘膜の状態によっては、サイナスリフトのほうが適していることもあり、その場合は迷わずそちらをご提案します。術式は、検査の結果を見てからお伝えします。
骨がないと言われた方へ|まず歯を残せるかを考えます
「他の歯科医院で、骨が足りないからインプラントは難しいと言われました」
「骨を増やす大きな手術が必要だと聞いて、それ以上話を聞けませんでした」
そのお気持ちは分かります。ただ、「骨がない」という言葉だけでは、実際の状態は分かりません。残っている骨の高さや上顎洞の形、粘膜の状態によって、選べる方法は変わります。当院で手術を受ける患者さんの8割近くは、一般に難症例とされるケースで、他院で断られた経験をお持ちの方も少なくありません。
最初にお伝えしたいのは、当院の出発点がインプラントではなく、歯の保存だということです。抜かずに済む方法が残っていないかを先に検討し、あらゆる選択肢を尽くしたうえで残せないと判断したときに、はじめてインプラントを提案します。ただ、他院で抜歯と言われた歯が、当院の診断で残せる結論に変わることは、それほど多くありません。多くの場合は、やはり抜歯という判断になります。それでも、抜く前に保存の可能性を含めてもう一度診断する機会には、意味があると考えています。
初診は1時間のカウンセリングで、診査と診断、治療の選択肢をご説明します。その日に治療を始めることはなく、その場で決めていただくこともありません。必ず持ち帰ってお考えいただき、次回に決めていただきます。「この先生とは合わない」と感じたら、その直感も大切にしてください。
また、当院の患者さんの95%以上が自費診療です。費用は症例によって異なるため、検査のうえでご提示します。近さや費用の安さを第一に医院を選びたい方には、合わないことがあるかもしれません。
まずは一度ご相談ください。
よくある質問
Q. 骨が足りないと言われたら、必ず大がかりな手術が必要ですか?
A. 必ずしもそうとは限りません。上顎洞挙上術には、歯茎の横から行うサイナスリフトと、インプラントの穴から行うソケットリフトがあり、骨の高さや形、全身状態で選び方が変わります。当院ではソケットリフトを主軸にしていますが、症例によって異なります。
Q. サイナスリフトとソケットリフトは、どちらが優れていますか?
A. 優劣ではなく、適応の違いです。ソケットリフトは傷口が小さく、負担を抑えやすいことが多い一方、骨が薄いほど難しくなります。サイナスリフトは視野が広く、広い範囲を持ち上げたいときに向きます。どちらが合うかは検査の結果で決まります。
Q. 初診の日にそのまま治療を始めることはありますか?
A. 初診は1時間のカウンセリングで、診査・診断と治療の選択肢をご説明します。その日に治療を始めることはなく、その場で決めていただくこともありません。持ち帰ってお考えいただき、次回に決定します。費用は検査のうえでご提示します。
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執筆 医療法人優和会 理事長 神田 浩之
東京歯科大学卒業。東京歯科大学総合診療科、東京都台東区の医療法人副院長を経て、
カンダデンタルけやきオフィス前橋を開業。インプラント治療歴20年以上、埋入実績4,762本
(2026年8月現在)。ISOI(国際口腔インプラント学会)指導医、DGZI Japan(ドイツ
インプラント学会)指導医、ADIA(アメリカインプラント学会)認定医。2025年 HIOSSEN
AWARD 表彰。「歯医者さんがおすすめする歯科医院」に5年連続で選出。
医療法人優和会 カンダデンタルけやきオフィス前橋
群馬県前橋市/027-212-0539
診療時間 9:30〜13:00・14:00〜17:30(土曜は17:00まで)
休診日 日曜・木曜・祝日
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