正直に言えば、この歯は私も最初「抜いた方が早い」と伝えました。
根の先の骨はすでに溶けてなくなり、感染は上顎洞という副鼻腔にまで達していました。歯はぐらつ
いていました。教科書的には抜歯の適応です。
それでも残せた例なので、患者さんの許可をいただいて記録として残します。
初診時の状態
左上の奥から2番目の歯。根の先が膿み、その膿が上顎洞に溜まっていました。歯が原因で起きる蓄
膿の状態です。

レントゲンでは、向かって右側の上顎洞が真っ白に写っています。感染しているサインです。根の先
の骨は広範囲に失われ、歯の支えがほとんどない状態でした。
この方はそれまでにいくつかの医院で治療を受けており、そのたびに状態が悪化して、最終的にはど
こでも「抜くしかない」と言われたとのことでした。
なぜ抜歯を勧めたのか
私が最初に抜歯を提案した理由は3つあります。
1. 支えの骨がほとんど残っていない
2. 感染が上顎洞という別の器官にまで及んでいる
3. この状態で何年も経過している
さらに言えば、骨がここまで溶けていると、抜いた後のインプラント治療も難しくなります。早く抜
いて感染を止め、骨の回復を待つ方が、結果的に患者さんの負担は小さいと考えました。
方針が変わった理由
患者さんから、こう言われました。日数はかかってもいい、ダメ元でもいい、と。
こういう場合、私は挑戦します。ただし条件があります。見込みがないまま治療を続けることはしな
い、治癒の兆候が出るかどうかを一定期間で判定する、という合意を先にしておくことです。無期限
に粘ることは患者さんの利益になりません。
3か月後
治療時間1時間を月2回、3か月続けました。

上顎洞がクリアになり、感染の範囲が明らかに縮小しました。**この治癒傾向が出るかどうかが、続
けるか抜くかの分岐点です。**ここで変化がなければ、私は抜歯に切り替えます。
7か月後

根の先の病巣は消え、骨が再生してきました。この後、根の中に最終的な薬を詰めて治療は終了して
います。
何をしたのか
特別な魔法はありません。使ったのは以下です。
⚫︎マイクロスコープ:肉眼では見えない根管内を拡大して確認する。ただし全症例で毎回使うわけ
ではなく、必要な場面に絞って使います
⚫︎歯科用CT:難易度の高い症例で、根の形態と病巣の広がりを三次元で把握する
⚫︎時間:当院では根の治療に1回あたり60分前後をかけます
時間をかけられるのは、当院が患者1人あたり60分の枠を取って完全予約制で運営しているからで
す。1日に多くの患者さんを診る体制では、物理的にこの治療はできません。
費用・期間・リスク
⚫︎治療期間:約7か月(来院回数8回程度)
⚫︎費用:【159,500円】
⚫︎主なリスク・副作用:治療中や治療後に痛み・腫れが出ることがあります。根管の形態や感染の
程度によっては治癒しないこともあり、その場合は抜歯が必要になります。歯の強度が低下する
ため、治療後は被せ物による補強が必要です。長期的な経過観察も必要になります。
最後に
この方は、歯を抜かずに済んだことと、インプラント治療をしなくて済んだことを喜んでくださいま
した。それでも噛めるようになるまでの費用は、インプラント治療の5分の1程度はかかっています。
安い治療ではありません。
ただ、ご自身の歯を使えるのなら安いものだ、とおっしゃっていただきました。
ただ、誤解のないように書いておきます。**このように残せるケースは、実際には多くありません。
**他院で抜歯と判断された歯を診させていただいても、その判断が覆ることはそう多くない、という
のが正直なところです。
私が最も力を入れているのはインプラント治療です。年間400本以上、これまでに4,762本を手がけ
てきました(2026年8月現在)。骨が足りないと言われた方、他院で断られた方の治療が中心です。
そのうえで根の治療にも時間をかけるのは、残せるかどうかを見極めたうえでないと、インプラント
を勧める資格がないと考えているからです。残す手段を持たない医師の「抜きましょう」と、手段を
持ったうえでの「抜きましょう」は、意味がまったく違います。
残せる歯は残す。残せないと判断したときには、最善の形で補う。その両方をお引き受けします。
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執筆 医療法人優和会 理事長 神田 浩之
東京歯科大学卒業。東京歯科大学総合診療科、東京都台東区の医療法人副院長を経て、
カンダデンタルけやきオフィス前橋を開業。インプラント治療歴20年以上、埋入実績4,762本
(2026年8月現在)。ISOI(国際口腔インプラント学会)指導医、DGZI Japan(ドイツ
インプラント学会)指導医、ADIA(アメリカインプラント学会)認定医。2025年 HIOSSEN
AWARD 表彰。「歯医者さんがおすすめする歯科医院」に5年連続で選出。
医療法人優和会 カンダデンタルけやきオフィス前橋
群馬県前橋市/027-212-0539
診療時間 9:30〜13:00・14:00〜17:30(土曜は17:00まで)
休診日 日曜・木曜・祝日
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