監修 医療法人優和会理事長 神田 浩之
近年、新しい矯正治療としてマウスピース矯正というものが流行ってきています。
それと同時に、多くのトラブルが発生しているようです。取り返しのつかないことにならないように、患者さん自身も値段や簡便なだけで選ぶことのないように知識をつける必要があると思います。
今回はマウスピース矯正のメリット・デメリットについて、さらに起こりうるトラブル、リスクについてお話しします。そして、矯正の種類、歯科医院の選択によって、その度合いも大きく変化します。
マウスピース矯正ってなに?
マウスピース矯正は、歯に緊密にフィットしたマウスピースを使って、歯を移動させる矯正治療です。
従来型の矯正治療に加わる新しい矯正治療法として、近年注目されています。
マウスピース矯正のデメリット
新しい治療法として注目されているマウスピース矯正ですが、残念ながらいいことばかりではありません。
滑舌が悪くなる
マウスピース矯正や裏側矯正は滑舌が悪くなりがちです。矯正装置の付けはじめは特に喋りにくさを感じるでしょう。ただし、話しにくさ、相手側にとっての聞き辛さは次第に落ち着きます。個人差はありますが装置に慣れてしまえば違和感はほぼなくなります。
適応症例に限度がある
例えば、埋もれた状態にある歯や他の歯よりも低い位置にある歯を引き出す挺出という矯正処置や、他の歯よりも飛び出ている歯を他の歯の位置に合うように押し込む圧下という矯正処置は、マウスピース矯正はあまり得意ではありません。大きくズレている歯を治す場合はブラケット矯正をお勧めします。大きくズレのある抜歯矯正についても、多くの場合、第一小臼歯とよばれる前から4番目の歯を抜きますが、歯の状態によっては5番目の第二小臼歯を抜歯対象とするなど、第一小臼歯と違う歯を抜くこともあります。
また、抜歯矯正はマウスピース矯正よりブラケット矯正の方がきれいに治ります。
詳しくは後でご説明しますが、顎変形症という骨格自体に原因のある歯並びの異常を治す場合もやはりマウスピース矯正では対応するのはたいへん困難です。
このように、マウスピース矯正の適応範囲には限界があります。最近は、適応症を見極めずに行ってトラブルを起こしている方が多いようですので、クリニック選びに注意が必要です。
またフォローでマルチブラケット矯正に移行できるクリニックでないとトラブル解決は難しいので注意してください。
小児のマウスピース矯正が向いてないのは、開咬や圧下が起き、成長を抑制してしまうのが理由です。他の歯科医院でトラブルが起きてから当院へ来るケースがありますが、基本的に小児は床矯正や本格的にマルチブラケットなどで対応します。
自己管理が重要
マウスピース矯正で、歯の移動を効果的に行うためには、一日20時間以上マウスピースを装着しなければなりません。
つまり、食事や歯磨きのときにマウスピースを外したのはいいけれど、そのまま忘れていては歯を移動させることができないというわけです。
また、2週間程度の間隔で、新しいマウスピースに取り替えなければならないのですが、古いマウスピースを新しいものに取り替えるのも、ご自身の手で行わなければなりません。
マウスピースの装着時間や定期交換を怠ると、当初の予定通り矯正治療が進まなくなります。
マウスピース矯正では、矯正治療を効果的に行うためには自己管理がたいへん重要で、しっかりとした自己管理が欠かせません。
食事のたびに外さなくてはならない
マウスピース矯正では、マウスピースをつけたままの食事はNGです。
マウスピースの破損や変形の原因となるからです。
何かを口にするときには、必ずマウスピースを外さなくてはなりません。
3度の食事のときだけでなく、おやつや試食でもそうです。
また、基本的にはジュース類やコーヒーなども同じです。
ご自宅でなら問題なくても、外出先でちょっとした飲食のたびにマウスピースを外さなくてはならないのも、マウスピース矯正のデメリットのひとつといえます。
マウスピース矯正のリスク
マウスピース矯正は、以下のようなリスクが起こる可能性があります。
歯肉退縮
歯肉退縮とは、歯茎が下がってしまうことです。
歯肉退縮が起こると、歯が大きくなったように見えてしまいます。
歯肉退縮は、歯の周囲の骨が薄いところに生じる傾向があるため、前歯に起こりやすいです。
また、乱杭歯の付近も、歯の周囲の骨が薄くなりがちなので、歯肉退縮が起こりやすい部位です。
痛み
歯を移動させるときに、歯の痛みを感じることがあります。
マウスピース矯正は、歯の加わる力が弱いため痛みが生じにくいと言われていますが、痛みが全く生じないとは言えません。
矯正治療中の歯の痛みは、矯正治療を始めた当初に起こりやすく、ほとんどの場合、しばらくすると慣れて痛みを感じなくなります。
IPR
歯をきれいに並べようとしても、顎の側に歯を収めるだけのスペースが足りないことがあります。
そのようなときは、IPRという方法でエナメル質のみ少し削ってスペースを確保します。
虫歯や歯周病
マウスピース矯正は、歯磨きのときにマウスピースを取り外せるので歯磨きはしやすいのですが、マウスピースが装着されていると、歯の周囲の唾液の流れが悪くなってしまいます。
唾液には、汚れを洗い流す洗浄作用のほか、虫歯菌などのお口の中の細菌の活動を抑える抗菌作用、虫歯菌によって溶かされた歯を治す再石灰化作用などがあります。
マウスピースの装着により唾液の流れが悪くなる、つまり唾液の作用が発揮できなくなるため、虫歯や歯周病のリスクが高まります。
矯正と一般歯科治療を両方できるドクターがいる所が安心です。
ブラケット矯正でトラブル症例に対応できる歯科医院をお勧めします。マウスピース矯正のみ行っている歯科医院は、トラブル対処や見極めが難しい場合があるので注意が必要です。
後戻り
後戻りとは、一度きれいな状態に整えられた歯並びが、元の状態に戻ろうとする作用のことです。
後戻りは矯正治療を終えて一定期間生じる可能性があるため、歯並びが安定するまでの間、後戻りを防ぐリテーナーという矯正装置を装着します。
リテーナーを装着していないと後戻りを起こす可能性が高まります。
再セットアップは有料の歯科医院が多いので、そこの費用も考えて選びましょう。毎月の診察費用がかかる歯科医院も多いので、総額で考えるべきです。当院はどちらも無料です。
マウスピース矯正のメリット
さまざまなデメリットやリスクを伴うマウスピース矯正ですが、デメリットやリスクばかりではありません。
メリットもいろいろあります。
目立たない
マウスピース矯正の最大のメリットに挙げられるのが、目立ちにくさです。
マウスピース矯正に使うマウスピースは、透明度が高い上に、非常に薄く作られています。
顎関節症の治療で用いられるマウスピースをご覧になったことがある方はお分かりいただけると思いますが、同じマウスピースでも、顎関節症治療のマウスピースは分厚く透明度もあまり高くありません。
そのため、とても目立ってしまうのですが、マウスピース矯正用のマウスピースなら、つけていてもつけていることがわからないほど、目立ちにくくなっています。
一見しただけでは、矯正治療を受けていることすらわからないほど目立たないのが、マウスピース矯正の優れたところです。
取り外しができる
マウスピース矯正で用いられるマウスピースは、ご自身で取り外しが可能です。
食事のときや歯磨きのとき、大事な用事がある時にマウスピースを取り外せますから、食事や歯磨きに困ることはありません。
日常生活への影響がほとんど生じないのもマウスピース矯正のメリットです。
治療前と治療後の比較の見える化
マウスピース矯正では、コンピューター上で歯の移動のシミュレーションを行います。
しかもシミュレーションの結果は、3DとしてCGアニメーションで見ることができます。
従来は、口頭で歯の移動を説明していたのですが、口頭ではなかなかわかりにくいものです。
マウスピース矯正なら、実際にどのように歯が移動するのかを目で見ることができますから、とても理解しやすくなっています。
マウスピースが清潔
マウスピース矯正では、定期的に歯の移動に合わせてマウスピースを新しいものに取り替えて治療を進めていきます。
そして、そのマウスピースは使い捨てです。
そのため、古くなったマウスピースは常に新しいマウスピースに交換されるため、マウスピースは常に清潔できれいな状態になっています。
金属アレルギーが起こらない
マウスピース矯正では、金属材料を一切使いません。
そのために、歯科治療で用いられる金属にアレルギーを起こす方、つまり金属アレルギーの方であっても、安心して受けていただけます。
矯正装置の脱落が生じない
マウスピース矯正では、歯にマウスピースをつけますが、歯に接着しているのではなく、歯にピッタリとフィットすることで外れないようになっています。
歯に矯正装置を接着するタイプでは、何らかの原因で矯正装置が外れてしまったり、ワイヤーが飛び出してしまったりすることがあるのですが、マウスピース矯正ならそのような心配がありません。
マウスピース矯正で対応できない場合
マウスピース矯正での治療が難しい場合は、当院では、その他の矯正治療で歯並びをきれいに整えています。
マルチブラケット法
マルチブラケット法とは、歯の表面に装着したブラケットという金具と、ブラケットの溝を利用して歯全体に弾性ワイヤーを通し、この弾性ワイヤーの働きで歯並びを整える治療法です。
100年ほどに及ぶ長い歴史があり問題点はほぼ全て洗い出されている、ほぼ全ての歯並びに対応しているほどの適応範囲の広さが特徴です。
こうしたいろいろなメリットがあるマルチブラケット法ですが、デメリットがないわけではありません。
まず、矯正装置が目立つという審美的なデメリットです。
また、慣れるまで食事や歯磨きに影響したり、矯正装置が当たって口内炎を作ってしまったりもします。
当院では、マルチブラケット法による矯正治療も数多く行っていますので、こうしたデメリットにも十分対応しています。
そのため、当院でマルチブラケット法による治療を受けていただくと、デメリットよりも利点の方が多く、安心して受けていただけます。
当院ではブラケットもワイヤーも白いものを使用しているのであまり目立ちません。
インプラント矯正
インプラント矯正とは、歯科矯正用のアンカースクリューというネジ釘のようなものを顎の骨に設置して、そこを支点として歯を移動させる矯正治療法です。
大臼歯という最も奥に生えている歯を後方に移動させることができると、歯を並べるスペースが拡大できますが、大臼歯は歯根がしっかりしているので、移動させるのがたいへん難しい歯です。
インプラント矯正を行うと大臼歯でも効率的に移動させることができます。
セラミック矯正
歯を削るというデメリットはありますが、短期間でかなりきれいな歯並びになります。同時に歯の色と形も変えられるので、短期間の審美的回復が最優先という方には向いているかもしれません。しかし、リスクについてはよく理解してから進めさせていただく方法です。
(術前) (術後)
主訴は上の前歯の歯列不正。短期間で済ませたいとのことで、リスク、デメリットを理解した上でセラミック矯正を行いました。
矯正歯科?それとも一般歯科?
歯並びは非常に複雑で、ひとりとして同じ人はいません。
歯の形や大きさ、歯根の形、歯並びを形成するに至った、噛み合わせだけでなく呼吸を含めたお口のいろいろな癖、顎の骨の形や大きさ、遺伝的要因などさまざまな要素が複雑に絡み合っているからです。
教科書上の知識だけで一律に歯を移動させるだけでは歯並びをきれいに整えることはできません。
治療途中に、当初は予期しなかったトラブルが発生する可能性もあります。
そんなときにも、矯正治療の経験の多い歯科医院なら、取り得る選択肢が多いので安心です。当院も一般的な虫歯治療はもちろん、本格矯正治療も行っており、マウスピースを使った矯正治療も長年の実績がありますし、その後、マウスピース矯正でトラブルが出た際もブラケットを使った矯正などでリカバリー対応できるのでマウスピース矯正治療にとどまらない対応が可能なので安心です。
まとめ
今回は、マウスピース矯正のデメリットやメリットを中心にして、マウスピース矯正についてご説明しました。
マウスピース矯正には、ご紹介したようにいろいろなデメリットやリスクがある反面、メリットが多いのも事実です。
デメリットやリスクをできるだけ抑え安心して受けていただくためには、マウスピース矯正を十分理解している矯正歯科医院で治療を受けることが一番です。
最近は安いマウスピース矯正が流行っていますが、歯科医師の管理がないまま行うのでトラブルも多く、多大なリスクがあります。
当院では、マウスピース矯正の治療経験が大変多く、他の歯科医院では難しい、できないと言われたさまざまな難症例の治療経験もあります。
また当院では、マウスピース矯正以外の矯正治療も行っています。
マウスピース矯正での対応が厳しい場合、もしくはマウスピース矯正で何らかのトラブルが発生した場合でも、マルチブラケット矯正などで対応することも十分可能です。
他の歯科医院で、マウスピース矯正では難しいと言われた方や、マウスピース矯正に不安のある方も、一度当院でぜひご相談ください。
当院の院長がメディアの依頼を受けてマウスピース矯正の記事を書いたものもありますので参考にしてみてください。
(監修コラム記事)